「ロボット」(チャペック)①

チャペックが「ロボット」に重ね合わせていたのは

「ロボット」
(チャペック/千野栄一訳)岩波文庫

1932年、科学者ロッスムは
人造人間を開発しうる
新物質を発見、以来、
企業R・U・R社が量産化に成功、
社会には人造人間「ロボット」が
あふれ出す。
それから10年後、
全世界で一人も子どもが
生まれなくなり、
そしてロボットたちは…。

知りませんでした。
「ロボット」という言葉が
この戯曲から生みだされていたとは。
今では当たり前に使われている
「ロボット」という言葉。
その概念は本作品で始めて
世界に発信されていたのです。

ストーリーは現代となっては
見え見えです。
ロボットは最後に
反乱を起こすのですから。
でも、SF作品の先駆けだとか、
ロボット映画の出発点という
見方はどうでしょうか。

チャペックが
イメージしている「ロボット」は、
アシモやキュリオのようにいかにも
ロボット然としたものではないのです。
本文中に挿入されている
初演時の写真を見る限り、
イメージとしては「人造人間」、
見た目は人間なのです。

R・U・R社の創り上げた
「ロボット」とはそもそも何なのか?
「労働者を人工的に作るということは
 ディーゼルエンジンを
 作るのと同じです。
 製造は出来るだけ
 単純でなければならず、
 製品は実用的に
 ベストでなければならないのです。」

では「実用的にベストな労働者」とは
何か?「経費がかからない奴です。」

そう考えると、
チャペックが「ロボット」に
重ね合わせていたのは
「安価な労働力」、
つまりは奴隷もしくは
奴隷的に使用されている人民
ということに
なるのではないでしょうか。

作品のいたるところに
差別や偏見への抗議と見られる表現が
織り込まれています。
人権活動家ヘレンが
「ロボット」の置かれている境遇に対し、
「インディアンより悪い」と
言い切っています。
女性型「ロボット」を
あえてつくる理由について、
社長ドミンは
「一定の需要があるからです、
 お分かりですか?
 女中とか、売り子とか、
 タイピストとかで、
 人がそれに慣れているものですから。」

と述べています。
民族差別や女性蔑視が
当たり前のように
存在していることをうかがわせます。

執筆は1920年。
今から100年前の世界です。
現代以上に差別や偏見は
全世界に蔓延していたはずです。
表面上のSF的要素に
惑わされることなく、
チャペックが描きたかったことにこそ、
思いを馳せるべきでしょう。

(2019.5.21)

【青空文庫】
「RURーロッサム世界ロボット製作所」
(チャペック/大久保ゆう訳)
※別の訳者、別の邦題で
 青空文庫に収録されています。

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